1.小型風車の技術と製品の分類
実用風力発電機について、運転の原理と制御のポイントとなる力学的な出力制御の観点から分類する。
小型風力発電機の分類に入る前に、まず風力発電は目的により次の2種類に明確に分けられる。
【独立電源型:Stand-Alone】
電気のないところで自給自足型の電源設備として風力エネルギーから電力を生産し、消費するスタイル。発電機は励磁のいらない永久磁石式の発電機(PMG)を使うのが普通。
ただしフランスのVergnet(ベルニエ)社の機種のように、誘導発電機にコンデンサーからの無効電力を与えて自励する方式もある。
電力は通常蓄電池に貯めてから使うが、今回の事例にもあるようにポンプなど負荷に直結して使う場合もある。
本来の目的からは離島、畑、海岸、山奥、ヨットなど電源へのアクセスがよくない場所での電源に使われる。
阪神淡路大震災のような非常時や停電時の緊急電源として、非難場所になる学校や工場などに配備しておくことも今後考えられる。
学校の場合は日常から環境教育の教材として使われることにも意義が大きい。
実用的には最大出力10kW、ローター径にして約10b程度までの風力発電機。
【系統連系型:Grid-Connected】
電力会社の配電系統と連結して風力エネルギーから電力を得る自家発電設備。余剰電力は電力会社に売電する。
系統と連結することで風車の回転数などの動きを制御するので、独立電源設備としては使えない。
スケールメリットが生かせ、風が強い地域であれば経済的に収支が成り立ち、欧米の強風地帯では商用の風力発電所として設置例は多い。
環境エネルギーということを度外視しても欧米では商用発電所や、土地持ち農家の投資の対象ともなっている。
日本ではまだ実験やベンチャー的、シンボル的な使い方しかされていないが、条件がそろえばスリルのある投資対象となる。
商用機の現在の趨勢は300〜600kW機となっているが、さらに大型化が進みメガワット機(1000kW以上)機の時代が到来しつつある。
ローター径が30〜40b。 小型機で系統連系運転をしたいという声も多く、実験的に行われているものを以下の事例にも挙げるが、今後経済的に負担が少なく、容易にできる方法が望まれる。
風が強いほど運動エネルギーは大きくて結構なことであるが、残念なことに風力発電でも必要以上の強い風は有害となる。
第一に危ない。 そして、めったに出現しない暴風に対応する設計をしても、コストは上がり設備の利用効率は急激に低下するため著しく非経済となるからである。
そこで実用上、通常は風速12〜17m/秒を定格出力風速として、これ以上風が強くなっても出力が上がることがないようにする。
どのような方法でそのようにするかがひとつの技術的分類となる。 なお、コンピュータ制御の大型機は、普通10分間の平均風速が25〜30m/秒を越えるような暴風時は専用のブレーキを発動し運転をストップするが小型機にはそのような専用のブレーキ装置は、設備のバランスからつかない。
小型機の場合、原理が簡単でコストのかからないシンプルな方法で回転数を機械的に制御し、
ローターが過回転に陥らないようにする機構が使われる。試行錯誤から最適設計が進化してきた。
実際の風は強弱もあり理屈通りというわけにはなかなか行かず、電気負荷による制動効果も必要になってくる。
1.1 ローター偏向式
通常の運転中、風力発電機は風見鶏のように風向を追従するが(Yawing:ヨーイング)、
風が強くなるにしたがいローター面を風向から徐々に外し、受風面積を減らして回転数を抑制して出力を抑制する。
風向に相対してローター面に与える自由度の方向によって水平偏向と鉛直偏向に分けられる。
水平偏向式の多くはローターへの風圧の中心をヨー回転の中心から水平に離すことによって、出力制御をヨー回転と同一運動としている。
この作用の復元力として尾翼に働く重力と風圧のバランスの釣り合いを巧みに利用しているが、
この機構は風の強弱を吸収するクッションにもなっている。
一方鉛直偏向式は偏向の復元力がスプリング仕掛けかシーソー方式になるが、支柱が邪魔になるため下方には偏向できず、
風の強弱に対してクッションが得られない欠点がある。
1.2 ピッチ制御式
小型機の場合、遠心力を利用したガバナーを使う。
ローターの回転が大きくなると遠心力によりガバナーが翼の風に対する迎え角(ピッチ)を小さくし、
ローターの原動力である翼に発生する揚力を減衰させて出力を抑制する。
実際の風の強弱に追随する早い応答が特長。機構が少し複雑になる分、コストが上がり、故障などの確率も大きくなる。
大型機の場合は専用の風速センサーによりコンピューターがピッチ角を油圧やモータ−で制御する。
次に説明する失速制御式の失速後のローターの出力低下はなく、定格出力は維持される。機構は複雑になるがブレードを含め、
構造物に対する力学的な負荷が小さくてすむ。現実の風速の強弱に追従するには難があること、
およびせっかくのメカが使われる風速帯の出現率が低いというのが現実。
1.3 失速制御式
誘導発電機による系統連系方式をとった場合にのみ使われる。現実には大型機のみで広く使われる。
小型機での事例はない。別名固定ピッチ式。ローター回転数も不変。ローター当たる風速が大きくなるにしたがい、
翼の風に対するみかけ上の迎え角が大きくなり、ある風速すなわち定格出力風速を越えると失速状態になる。
飛行機と同じで揚力が失われ、ローターの出力は急激に低下する。
機械の簡単な構造の上に電気の特性と流体力学がよくマッチしており、風力発電には非常に適した出力制御といえる。
2.用途別の分類
小型風力発電機の用途は、前述独立電源型の説明部分で記載の通り、電力の入手に不自由な場所での電力取得が原点であるが、
その運転方法と利用方法について用途別にいくつかに分類できる。
負荷直結式を除き、不安定な風力エネルギーを安定して使うためのパートナーの組み合わせによる分類といえる。
負荷直結式の場合であっても、例えば揚水を目的とする場合などは、
汲み上げた水の位置エネルギーという形で風力エネルギーを貯蔵して好きなときに使うという安定化の方法でもある。
以下、用途別の分類をわかりやくす説明する。
2.1 蓄電
小型風力発電機の最も基本的な用途であり、
古くは開拓民、現在でも中国、モンゴル、オーストラリア、アフリカ等の広大な場所での電化の手段として使われているほか、
電波中継所や観測所など、電力へのアクセスが不便な場所で広く使われている。
基本的な機器構成は簡単であり、風力発電装置と蓄電池があればよい。
蓄電池は過充電に注意を払う必要がある。過充電は塩分取り過ぎのようなもので、蓄電池の寿命を短くします。
通常風力発電機には専用の充電コントローラが付属しており過充電防止機能が付属している。
蓄電池はは自動車用の安いものでよいが、過放電に弱いので、なるべく常にフル充電に近い状態にキープされるように注意が必要。
フォークリフトやゴルフカートなどに使われるサイクルサービス用と呼ばれる蓄電池なら放電の繰り返しに強いが、
それでも過放電にならないような注意は必要である。蓄電池からは、自動車用品や船舶用品などが直接使える。
アマチュア無線の電源に使う人たちもたくさんいる。
インバーター(直流交流変換器)を介入すれば家庭用の電化製品も使えるが、100V製品は容量が大きいので過放電への注意が必要。
2.2 負荷直結運転(揚水風車を含む)
蓄電池は使わず、風があるときだけ性能を出してくれればよいという要求は決して少なくない。
風力発電機を、蓄電池は経由せずに直接、負荷すなわち利用する目的を使う場合、
発電機の出力線を直接負荷に接続してしまえばよさそうなものであるが、それはできない。
なぜかというと、エネルギー変換のエンジンであるローターすなわち風車部分は、高速で回転して始めてパワーが出るので、
回転が不十分なときから負荷がそのままつながっていると重荷になって回転が始まらない。
飛行機が滑走路から浮き上がるのは十分にスピードにのってからということと同様で、いきなり空中に放り出しても重さを支えきれず、落ちる。
したがい、ローターが十分に高速で回転してから始めて負荷を投入するような制御装置やコントローラが必要となる。
負荷が小さすぎると強風での発生電力の消化ができず、負荷を傷めることになる。
直結運転システムでは制御装置のみならず、負荷と風力発電機の容量のバランスも重要となってくる。
風力を蓄電池なしで利用する別の形態として、昔のように得られた動力をそのまま機械伝達して装置の駆動に使うという選択肢もある。
蓄電池そのものがなかった一昔前はオランダ風車でおなじみの粉ひきとか排水のために専ら機械的に使われていた。
もちろん現在でもオーストラリアや風光明媚な東地中海地方、発展途上のアフリカで、地下水の揚水に活躍しているが、
揚水以外の目的で機械駆動の風車が使われることはほとんどない。ただし例外はある。
観光もしくはモニュメントとして使われるケースである。その場合においても、実際に仕事をする風車は揚水目的のもののみとしても過言ではない。降水量が多く、表層水に恵まれ、しかも今やインフラが整備された日本では、必要に迫られて揚水風車が使われることはほとんどない。したがい、揚水風車を利用することはモニュメントに他ならない。
2.3 内燃機関との複合運転
蓄電池型の発展システムで、風がない日が続いたりして風力エネルギーと蓄電備蓄が切れたときでも無停電を補償するため、
ディーゼル発電機など、遠隔地でも使えるバックアップ電源を組み込む。使用例としては、より文化的レベルの高い地域の農村電化など。
また、離島などで独立した商用系統を形成している場合でも使われる。 そのような系統への電力供給としてディーゼル発電機が使われているが、
普通は燃料基地からも遠く離れているので燃料の輸送コストが膨大となる。 貴重な燃料の消費を少しでも抑えたい場合、このシステムが活躍する。
普通は、風力発電+蓄電電源を主電源として、ディーゼル発電機はバックアップもしくはピークカット電源として設計される。
すなわちベースロードは風力である。蓄電池の直流電力とディーゼル発電機の交流電力を並列して使うためにインバーターが必要。
インバーターは蓄電の状態をモニターしたり、与えられた条件下でディーゼル発電機の起動や停止、
また必要あれば二つの電源の同期運転を取り扱わなければならない。
一方事例で紹介するカリブ海デジラード島のプラントは、ベースロードを複数のディーゼル発電機で受け持ち、
負荷の変動にはたくさんの風力発電機の系統に投入する本数を変えて対応している。蓄電池は使用していない。
いずれの場合にしてもディーゼルエンジンの効率を極力最適とするために、
ディーゼル発電機が軽負荷運転に陥らないように全体の負荷配分制御を行なう。
2.4 系統連系
量産風力発電機製品の場合、独立電源の用途には小型、系統連系には大型というように、その目的の特性に応じて完全に分かれている。
それぞれは別の目的には使われない。それぞれ名前は同じ風力発電機ではあるが、製品としては別のカテゴリーのものと考えたほうがよい。
一方、費用や敷地などの絶対的な制約と、利用面での簡易さから、小型の風力設備で系統連系をしたいという要求は多い。
小型風力発電機を系統連系運転することは可能であるが、もともとそのような目的としていないため、当然のことながら無理が生じる。
その無理はコストになって現れる。すなわち、量産品からの転用がきかないことによるコスト高は当然のこととして、
現在の段階では系統連系が目的でもなお、電圧変動の安定化のために蓄電池が必要ということになるためである。
ただし、太陽電池のように一般住宅単位の系統連系も一般的となっており、小型風力発電機のための、
より低コストなる系統連系装置の開発が望まれている。
最後に、いずれの方式にしても最も大切なことは良好な風力が得られるということに尽きる。
良好な風を得るためには、高さが非常に大切となる。 ただし風力発電機をいくら高いところに設置しても、それよりも高い障害物がまわりにあってはいけない。
風力発電機の周囲少なくとも100b以内に風力発電機の高さを越える建物や林がなければ理想的であるが、
現実的には周囲に障害物があっても、よく「風が通る」場所を選ぶべきである。