すべての前提:良好な風は得られるか。
風力発電のエネルギー源は良好な風です。
風のエネルギーはなんといっても風速の3乗に比例します。
風速は一般的に(*)地上から高いところほど大きくなります。また風力発電機の受風面積に比例してエネルギーの取得は大きくなります。
(*)例えばビル風の場合地上に近いほど風速は大きい。
上の図をよく見てください。障害物の影響は風上領域まで及んでいます。
すなわち風力発電機にとって風上に何もなければ風の当たりがよいというものではなく、
左右と背後、下の障害物も風力発電機に当たる気流に影響するということがわかります。
上の図に示す風の乱流域内では有効な風のエネルギーが得られないばかりでなく、
風力発電機の寿命が著しく損なわれるので設置場所としては不適当です。
風力発電機の立地を決める場合、風が障害物から受ける影響範囲は一般的に次の空間と考えられます。
- 風上側に障害物高さの2倍の地上距離
- 風下側に障害物高さの10倍の地上距離(20倍と考えるのが望ましい)
- 障害物風下直後に障害物高さの2倍の地上高
風力発電機の性能は、風力発電機が障害物の影響のない良好な風況下にあることを前提としています。
乱気流の影響
質量のある物体には慣性があり運動量と呼ばれるのと同様に、回転体にも回転の運動量があります。
回転体の場合、質量にあたるものを慣性モーメントと呼び、回転体の質量と質量の分布によって決まります。
回転体の慣性は角運動量と呼ばれます。
運動量はベクトル量であり、保存されます。角運動量も同様にベクトル量であり、保存されます。
ジャイロモーメントなどと呼ばれたりもします。
物体が等速直線運動を続けるのと同様に、回転体もそのベクトル量を維持しようとします。
この性質を利用したものに航空機の慣性航行装置などがあります。
元気に回転する風力発電機のローターには質量があるわけですから角運動量があります。それは前述の通りベクトル量です。
風力発電機が激しい乱気流の中にあると、忙しく首を振ります。いやだいやだと言っているようなものです。
そのような風力発電機を見たらそこには乱気流があるということです。この首振り運動をヨーイング(yawing)といいます。
荒海を航行する船舶のヨーイングと同じです。
風力発電機がヨーイングを起こすと、ローターの角運動量が水平面内で変化することになります。
一方もとの角運動量は保存されますから合力を構成する別の角運動量が存在するはずです。
その角運動量は変化する前と後のローター角運動量の差です。絵で描くと2つのベクトルの矢印を結ぶベクトルがそれです。
発生したこのベクトルはもともとの角運動量の方向すなわちローター軸の方向に対して直角の向きになります。
これは風力発電機にピッチングを起こす力となります。船舶のピッチングと同じです。
風力発電機を鉛直面内で回転させる力です。
一方風力発電機は鉛直方向に回りません。したがって機械全体に応力が発生します。
この応力が部品に歪をもたらせたり、振動を発生させる原因となるわけです。